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リードは飼い主の感情を犬に伝えるか・第1回/全4回
2026-09-05犬の行動学

リードの有無は犬の行動を変えるか

リードの有無は犬の行動を変えるか

第1章ではリードのオン・オフで、犬の行動がどう変化するかを掘り下げていきます。 

「結局のところ彼女は犬です」:盲導犬利用者の盲導犬の行動に関する見解

盲導犬

この論文は英国盲導犬協会に登録されている盲導犬利用者に対して実施された電話調査です。

盲導犬の行動のうち、盲導犬利用者自身が特に重要だと考える側面を調査する目的で実施されました。
以下は論文を翻訳したものから、リードのオン・オフと盲導犬の行動について述べた部分を抜粋したものです。

ハーネスがオンのとき、リードのみオンのとき、どちらもオフのとき。この3通りの行動があり全く異なる

ハーネスを着用しているときは「作業モード

ハーネスもリードもオフのときは「まるでペット犬のように振る舞う」と報告された

ハーネスを装着しているとき、犬はしばしば「作業モード」に入り
自分の仕事に集中していると表現された

非作業中や自宅にいるときは、気だるく穏やかほとんど目立たないと表現されることが多い

「家ではとても良い。静かに座っており、おもちゃで遊ぶ」

多くの盲導犬利用者は、犬はハーネスやリードのオン・オフで行動が変化していると感じているようです。

これらの結果を見るとリードやハーネスは、犬にとってオンオフのスイッチになっていると言えます。 しかし一方で、このような意見もあるようです

ハーネスがオフの状態であっても盲導犬利用者への高い関心は維持される。
(それは)一部の盲導犬利用者にとっては肯定的に、または否定的に捉えられる。

「私からあまり離れず常に周囲を見回して私がトラブルに巻き込まれないか確認している」

「私が働く場所から離れると、彼女はうろたえる2〜3分間離れていても問題にならないよう、リラックスしてほしい」

このようにリードやハーネスがオフの状態でも盲導犬利用者を強く意識している犬もいるようです。
なおこの論文ではリードやハーネスがオフでも盲導犬利用者を強く意識している犬については深堀されていません。

多くの盲導犬にとって、リードやハーネスは作業モードのスイッチのようです。
しかし盲導犬利用者の言う”作業モード”が犬にとってどのような行動のスイッチになるかは、この論文ではわかりませんでした。

リードやハーネスをオフにすると犬にとってどんな時間になるのか。
遊んでいい寝転んでいい周囲に気を配らなくていいなど、様々な行動が考えられます。

彼らが何をオフしているのかを明らかにすることは、盲導犬だけでなく多くの飼い主の助けになると思います。
例えば周囲への警戒スイッチのオンオフの方法が解明されると、散歩やインターホンがなったときの吠え予防にも役立つかもしれません。

盲導犬の研究は犬の行動学の分野でも比較的発展しており、今後作業モードオフモード時の盲導犬のストレス値、などの論文も発表されてくると思います。

最後に、この論文のタイトルに引用されているとある盲導犬利用者のコメントをご紹介します。
このコメントは盲導犬たちが”犬であること”をとてもよく表していて、長男は大好きです。

彼女はちょっといたずら好きで、靴下を盗んで遊びたがる。
彼女にそれはしてほしくないが、立ち止まって考える。
靴下で遊ばれてもそれは世界の終わりではない。
結局のところ、彼女は犬なのだ。

散歩中の犬の行動とリードを使うことによる影響

この論文は、イギリスでリードのオン・オフと犬の行動の関連性を調べたものです。
条件の異なる2つの研究を通して、
疾病がまん延したときに犬を安全に散歩させるにはリードは有効か
を調査しています。

研究1 人気散歩スポットでの観察

散歩スポット

イギリスのワーラル地方の人気散歩スポットで、合計286頭の散歩している犬を観察した実験です。
研究者は観察対象の犬には接触せず、観察のみを行いました。
そのためそのスポットを普段から散歩している人や犬の普段通りの姿が結果に反映されています。

このスポットにはオンリードの犬オフリードの犬の両方が散歩しています。
観察対象の犬と他の犬のふれあい、観察対象の犬と飼い主以外の人とのふれあいの回数をカウントしました。

73%の犬で犬同士のふれあいは見られず、他の犬とふれあった犬は27%だった。

91%の犬はヒトとふれあわなかった。
19%が犬のみ、2%がヒトのみ、8%が両方とふれあった。

犬とのふれあいの回数
  オンリード:0-11,オフリード:0-17

他の犬とふれあいをした犬の数
  オンリード:0-3,オフリード:0-6

ふれあった人の数
  オンリード:0-2,オフリード:0-3

その結果、オンリードの犬オフリードの犬を比較して、オフリードの犬の方が他の犬とふれあう数が増えているようです。
しかしこれだけではリードのオン・オフがふれあいの回数を決めているとは言い切れません。

例えば犬とのふれあいの回数を比べると、オフリードの犬の方がオンリードの犬より6ポイント多いです。 一方、ふれあった人の数を見ると、オフリードの犬の方が1ポイント多いだけで、差はわずかでした。

これは長男の推測ですが、オンリードの犬のほうが周囲の人からすると関わるきっかけが増えやすい可能性があります。
例えば人同士が挨拶をしたときに犬にも挨拶をする、というのは自然な流れです。

オンリードの犬オフリードの犬で周囲からの印象が違う可能性も考えられます。
もしオフリードの犬が周囲から「コントロールされていない」と受け取られた場合、犬との接触が少なくなるのは当然です。
この部分は今回は調べきれていませんが、例えば盲導犬の分野で「盲導犬が周囲の人に与える印象や影響」という切り口で研究されていそうだなと思います。

この論文では関わりのきっかけやプロセスには触れられておらず、詳細は不明です。
しかし「リードのオン・オフが犬の行動を直接変えているわけではない」ことを示唆していると、長男は考えます。

周囲の見方は?

研究2 廃線となった約1kmの鉄道跡地を利用した実験

研究2は研究1と比べてより閉鎖的な環境で行われました。

約1kmの廃線跡地を利用した実験で、10頭の飼い犬と飼い主を対象に行われました。
リードのオン・オフで犬の行動がどう変わるか、をより直接的に調べた実験です。

参加した犬と飼い主はこのコースを歩き慣れており、「他の犬の近くでもオフリードで安心して散歩させられる」と述べていました。

飼い主はオンリードの散歩では必要以上に犬をコントロールせず、馬や自転車が通るときのみ飼い主が制止しました。

一回目は往路をオフリード、復路はオンリード。2回目はオン・オフを逆にして歩きました。
実験は同じ曜日・同じ時間帯で、2週間以内に行われました。
またこの研究では 観察対象の犬とその犬と交流した相手の犬、どちらがオンリードかに着目しました。

オンリードの状態では、オフリードの状態と比べて
・自分がオンリードの場合、相互作用の確率が半分になった
・相手がオンリードの場合、相互作用の確率が約3分の1になった

※正しくは確率ではなくオッズ

この研究のポイントは「相手の犬がオンリードの場合」を分けて観察している点です。 この研究結果が示唆するのは以下の3つです。

  1. 相手の犬がオンリードかどうかで、関わるかどうかを判断している可能性
  2. 相手の犬がオンリードであることで相手側の行動範囲が狭まり、接触がしにくくなっている可能性
  3. その両方

この研究ではこの3つのどれにあたるか、までは言及されていません。
そのため推測ではありますが、「犬は人が思っているより、よく周りを理解している」可能性があります。

リードのオン・オフで犬の行動は変わる、ただしどう変わるかはわからない

わかったこと

第1章ではリードのオン・オフで、犬の行動が変化するかを2つの論文で見てきました。 その結果次のことが言えます。

  1. 犬の行動はリードのオン・オフで変化する。
  2. 犬には作業モード、のようなオンとオフがある。
  3. リードやハーネスは犬のオンオフのスイッチになる可能性がある。
  4. リードのオン・オフで周りの犬や人とのかかわりの回数が変化する。
  5. 他の犬がオンリードかどうかでも行動は変化する。

分からなかったこと

一方で、今回の論文では分からないこともありました。 

  1. 犬がリードやハーネスをどのように捉えているかはわからなかった。
  2. 普段リードやハーネスをオンにしている犬が、それらをオフにした時、どのように変化するかはわからなかった。

限界

今回ご紹介した2つの論文はどちらもイギリスの犬を対象に調査をしています。
そのため家や道路・自然・犬との関わり方などの文化的な背景が、日本とは違う可能性が高いです。

犬種もラブラドールレトリバーやコリーなどの中〜大型犬が多く、日本に多いトイプードルやマルチーズのような愛玩犬メインのデータではありません。

1つ目の盲導犬の論文で、リードやハーネスをしている時としていない時の行動が違うということがわかりました。
しかしなぜ違うのかという部分についてはまだ研究はされていないようです。

2つ目の論文の研究2ではそもそも、オフリードでも安心して散歩ができる犬しか参加していません。 
普段オフリードでも安心して過ごせる犬と、オフリードだと安心できない犬では比較することはなかなか難しいです。
しかし、オフリードだと安心できない犬を対象にリードのオン・オフで、行動が変化するかを調べた論文はありませんでした。
これは単純に安全上の理由があると考えます。

考察

結論

犬の行動がリードのオン・オフで変化するかをはっきりさせるためには、厳密には『リードのオン・オフ以外の刺激を統一する」必要があります。

1回目の実験と2回目の実験で周囲の環境が違えば、何が原因で行動が変わったのかわかりません。例えば2回目の実験で選挙カーが通ったらどうでしょうか?
大きな音、車、これだけで犬は吠えるかもしれません。そうなるともう、リードがあるとかないとかの話ではなくなってしまいますね。

環境を統一する、というのは大きな体育館でならできるかもしれません。
しかし今度は体育館での犬の様子を外での散歩と同じに考えても良いのか、という問題が発生します。
普段歩かない、知らない環境」というのはやはり犬の行動を変化させます。 それを防ぐためにはまず体育館での散歩に慣らす必要が出てきますね。

おそらく、体育館のようなクローズドな環境と今回ご紹介したようなオープンな環境の研究を組み合わせて探っていく、というアプローチになるのではと思います。これは時間がかかるのも当然ですね。

今回の論文で取り上げられた犬たちは皆オープン環境下を観察しています。そのため、リードのオン・オフ以外の要因がどれほど影響しているかは図ることができません。

あくまで「リードのオン・オフは犬の行動を変える要因になる」という理解がちょうどよいのではと思います。

この回の結論

リードのオン・オフで犬の行動は変わる。
ただしリードが理由の全てだとは言い切れない。

参考情報

  • “She’s a dog at the end of the day”, Guide dog owners’ perspectives on the behaviour of their guide dogPLOS ONE. 2017;12(4), e0176018.)

    • 著者: Craigon PJ, Hobson-West P, England GCW, Whelan C, Lethbridge E, Asher L
    • 発表年: 2017
    • 主たる研究機関: ノッティンガム大学 獣医科学部(英)/ Guide Dogs for the Blind Association(英・盲導犬協会)
    • COI開示: 著者らは「利益相反なし」と申告。ただし資金源の記載によると、著者のうち2名はGuide Dogsから研究助成を受けており、1名はGuide Dogsの職員、1名の博士課程はGuide Dogsとの共同出資、1名はGuide Dogsに獣医サービスを提供している。調査対象である盲導犬協会と著者らの間に金銭的な結びつきがある点は留意が必要
    • DOI: 10.1371/journal.pone.0176018
  • Dog behaviour on walks and the effect of use of the leashApplied Animal Behaviour Science. 2010;125(1-2), pp.38-46.)

    • 著者: Westgarth C, Christley RM, Pinchbeck GL, Gaskell RM, Dawson S, Bradshaw JWS
    • 発表年: 2010
    • 主たる研究機関: リバプール大学 獣医科学部(英)/ ブリストル大学 Anthrozoology Institute(英)
    • COI開示: 論文本文中に明示的なCOI開示欄は確認できなかった
    • DOI: 10.1016/j.applanim.2010.03.007

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